| HOME 猫のプランタン ただいま戻りました 異人たちの路地裏 あの日のサンセット通り メガシティに響く | |||||||||
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神楽坂の路地裏に、小さなフランス料理店があった。 夕暮れどき、店の窓辺にいつも一匹の猫が座っていた。白い毛並みに、片方だけ灰色の耳。名前はプランタン。春という意味だと、店の主人が教えてくれた。
2011年の秋、僕はその街に引っ越してきた。古いアパートの三階。窓を開けると、向かいの家の瓦屋根と、遠くに新宿のビル群が見えた。 仕事帰り、僕はプランタンに会いに行った。
「おいで」と声をかけても、猫は動かない。ただ、夕陽に染まる石畳を眺めている。 ある日、店の主人が言った。 「この猫ね、毎日六時になると、あの角を見てるんですよ。誰かを待っているみたいに」
その角を曲がってきたのは、赤い傘を持った女の人だった。 彼女は猫の前にしゃがみ、そっと頭を撫でた。 「プランタン、ただいま」 僕は思わず振り返った。彼女は笑って、猫を抱き上げた。
「この子、昔からここにいるの。春になると、いつも帰ってくるのよ」 街の灯りがひとつ、またひとつ点り始めた。 そのとき僕は、東京にも、誰かが帰ってくる場所があるのだと知った。
神楽坂の夜は、猫の鳴き声と、遠くの電車の音に包まれていた。 そして僕の東京フラットにも、マジカルアワーが始まった。 |
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