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東京・池袋。高層ビルの谷間に、小さなジャズ喫茶があった。
店の名前は「ブルー・ノート」。地下へ降りる階段の壁には、古い映画のポスターが貼られていた。
僕は仕事帰りに、そこでピアノを弾く青年と知り合った。彼は毎週金曜日、決まって同じ曲を演奏した。誰に聴かせるでもなく、ただ街の騒音に向かって。
「東京って、何でも大きいでしょう」
ある晩、彼は言った。
「ビルも、駅も、人の夢も。でも、音楽は小さくていいんです」
その夜、窓の外では雨が降っていた。終電間際の電車が走り、遠くの交差点でタクシーの灯りが滲んでいる。
青年は鍵盤に指を置いた。
最初の音が、地下の店から階段を上り、地上の街へ出ていくような気がした。
ビルの壁に反射し、誰かの帰り道に寄り添い、夜の高速道路を越えていく。
僕はふと思った。
この巨大な街にも、誰にも気づかれない小さな歌がある。
そして、その歌を聴いている人が、きっとどこかにいる。
演奏が終わると、青年はいつものようにコーヒーを飲んだ。
「明日も東京は騒がしいでしょうね」
僕はうなずいた。
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