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渋谷、午後六時。スクランブル交差点を渡る人々の波に、僕はいつも少しだけ遅れていた。
その日、駅前の大型ビジョンが突然消えた。広告もニュースも、街の光も、すべて真っ黒になった。
信号機だけが青く光っている。
誰かが口笛を吹いた。すると、向かいのビルからサックスの音が聞こえた。地下のライブハウスで演奏していたらしい。今度は歩道橋の上で、若い女の子が小さな太鼓を叩き始めた。
街のあちこちから、音が集まってくる。
タクシーのクラクション。自転車のベル。地下鉄の走る音。誰かの笑い声。
気がつくと、交差点は巨大な楽団になっていた。
僕の隣にいた男が、肩を揺らして笑った。
「東京って、こんなに音楽的だったんですね」
やがてビジョンが復旧し、街はいつもの広告とニュースに戻った。人々は何事もなかったように歩き始める。
けれど、僕の耳にはまだ、さっきのサックスが響いていた。
渋谷の裏通りへ曲がると、小さな喫茶店の窓に「今夜、即興演奏あります」と書かれた紙が貼ってあった。
僕はドアを開けた。
新しい東京は、いつだって少し騒がしくて、少しだけ自由だった。
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