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東京・銀座。終電が近づく地下鉄のホームで、僕は古い映画のポスターを眺めていた。
そのとき、隣に立っていた女性が言った。
「この電車、どこまで行くんでしょうね」
「終点まで、じゃないですか」
「そうじゃなくて、夢の終点」
彼女は笑った。手には小さな旅行鞄。どうやら、今夜の夜行列車で東京を離れるらしい。
電車が入ってきた。僕らは同じ車両に乗り、向かい合わせの席に座った。車内には、仕事帰りの男や、眠ってしまった学生がいた。
「私、東京に来てからずっと、夜の地下鉄が好きだったんです」
彼女は窓に映る自分の顔を見つめた。
「地上ではみんな忙しそうなのに、地下に降りると、知らない人同士が同じ方向へ運ばれていくでしょう。不思議な感じがして」
電車は駅をいくつも通り過ぎた。
僕は彼女の名前を聞きそびれていたことに気づいた。けれど、今さら尋ねるのも妙な気がした。
やがて、彼女は立ち上がった。
「私はここで」
ドアが開く。彼女は振り返って、小さく手を振った。
「あなたの東京が、いい夢でありますように」
電車が走り出す。
窓の向こうに、彼女の姿が消えた。
僕は次の駅で降り、地上への階段を上った。夜の銀座には、まだいくつもの灯りが残っていた。
東京という街は、眠らないのではない。
誰かの夢を乗せて、夜の地下を走り続けているのだ。
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